Invitation

21日の教室の内容は「コリントゲームを作ろう」。釘を打つ練習のためのもの。まず板に虫の絵を描くので近くの川に虫とりにいく。あらかじめショウリョウバッタ素手で捕獲できたていたので、川でも大丈夫と考えてカゴだけ持って出かけたらこれが間違い。1メートル以上に伸びていた草が苅られたばかりの川原を勢い良く飛ぶトノサマバッタ。とても素手では太刀打ちできない。子どもたちもあきらめ顔。

とその時、はなれたところで網をもって楽しそうに虫採りをしている親子らしい2人連れを見かける。声をかけてみる。「上手に採れますね」「もう2時間以上行ったり来たりしてるんです。採ったのは全部逃がしてあげてるけど、50匹近く採ったかしら」「あらそう、ぼく上手ね。少し分けてくれないかなあ」「いいよ、ぼく採ってあげる」「ありがとう、よかったね(教室の子に)」。それからぴゃんぴょんとその子は虫採りに熱中し、幼いので教室の生徒さんが協力し、1匹捕まえて渡してくれた。「はい」「ありがとうね。ホントに上手だね。ぼく幾つ?」「4さい」「(お母さんらしき人に)近くで美術教室をしていて、今日は虫を描くんです。助かりました」「いいえ」。

しかし子どもはそれで終わらない。「ほらほらもっと採ってあげるよ」「そう、ありがとうね」。また一匹増えた。お礼を言って帰ろうとすると、「ほら〜、また採れたよ〜」。離れたところから声をかけてくる。「ありがとう〜」取りに行く。土手をあがり、戻ろうとすると、「ほら〜、またそっちに行った。捕まえてあげるからね〜」「どうもありがとう〜」。人懐っこいお子さんだ。初めて会った方達だが、「教室近いので、遊びにいらっしゃいますか」と声をかけてみる。「わたし、あの、この子は預かりっ子なんです」「あらら」「妹の子で」「じゃあ少しだけ見学していってください」。

すねてるのは我が子だ。『なんでお母さん、初めて会った人家に入れるの? 訳分らん!』『だってあの子、まだ遊びたがっているよ。虫のお礼よ。良さそうな人じゃないの。もうほっとくよ、授業があるから』。家に入りいつも通り授業をスタートさせる。お子さんには落書き帳とクレヨンを渡す。しばらくして我が子も戻る。

それぞれ描き始めて一同驚く。その子の絵が上手い!バッタを描いて、分らないところは図鑑を見る力がある。さっと描いて次ぎは好きなクワガタに移る。上手い!というか似ている。教室の生徒さんが影響を受けはじめる。4歳の子は今度はハサミを要求する。紙を折って切りはじめる。出来たのが落語の師匠ばりのクワガタ虫の切り絵だ。一同感心する。

「どこかで習ってるんですか?」「私がたまに教えて、基本は保育所ですが」「そうですか」「私は学校を出ていて、少し教えたら、もうず〜っと描いてるんです」。その子どもさんはやたら乗っている。生徒さんもちょっと集中する。こっちは本物を見て描いているので なかなか難しい。口元、触角、胸、足のはえかた、羽の模様、いつもより良く見ている。

ただエネルギッシュな4歳のお子さんと生徒さんのペースがずれ始め 生徒さんのおやつの時間になってしまった。その日はお迎えも早い。お子さんがノリノリのところを「ここまでにしようね、お礼にリンゴね、」と一つ渡して退散を願うと、「バッタ持って帰るね」。「(!)はいはい、では一匹ね、」と言って穴を開けたペットボトルに虫を入れて渡す。「もっと欲しい!」。引率の方が「また川で採ろうね。もうすぐお母さんとの約束の時間よ」と言ってくれる。「それではね」と、良く分らない別れ方をする。

なかなか「歓待」とはいかない。「招待」も半端であったが、教室の生徒さんの目にはどう映ったか? その後の様子を見ると、すっかり信頼を失ったようには 見えなかった。