今では安く手に入る手鏡。「お、100均とは思えないね!綺麗に映っている」。その鏡を何かの拍子に横にして見てみると、顔はワイドに広がっている。安い分だけ像が歪む?「鏡だけはちゃんと映るものを買いなさいよ」「コンタクト入れるだけだからいいし」。

少し前までは、メガネも鏡も今ほどに価格に差はなかったように思う。今では安いものになるとメガネは3000円代から、鏡は 100均などで容易に手に入る。

教室が始まる前のこの時期は基本的なことを考えるようにしている。子ども向けの本や役立ちそうな技術の本などをぱらぱらとめくる。

「ガラスのはなし」を読んだ。といっても平らなガラスを作るのに要した技術の時間、偶然から始まり、ある時期飛躍するといった、子ども向けの歴史のはなし。

紀元前数千年前の古代のガラス創成期に始まって、ガラスの骨つぼや夫を戦場に送ったあとの夫人たちの涙壷など特殊な用途のはなし、希少であったものが技術開発によって一般化されたはなし、移ってアラビアの熱に強いガラスの開発という質を高めたはなし、秘伝とまでなったヴェネチアン・ガラスの政府の囲い込み(ムラノ島)や隣接国との攻防のはなし、ヴェルサイユ宮殿のシャンデリアと鏡の間が王侯貴族に与えたインパクトやそのころ始まったビルの窓への用途の広がり。場所や時が次々に移って、想像力を逞しくさせてくれる。
至っては中国や朝鮮、日本でのガラスの呼称や 貿易ルートによる呼称の違い。ハリ、ハウリ、瑠璃、ビードロ、ディヤマン・カット=ダイヤモンド・カットが訛ったギヤマン
またガラスの 最新テクノロジーは始まって日が浅いこと、バイオ・ガラス、多孔質ガラス、レーザー・ガラス、光ファイバーなど、さまざまなニューガラスと呼ばれるものがあることなどを紹介した本であった。

また参考書としては、ワロンやラカンを参照にして、幼児の鏡と鏡像、対人関係について書かれたメルロポンティを読む。ワロンは未知であるが、リュッケ(リュケ)の箇所は古い講義の記録(1950-51年)とはいえ、授業作りの参考になった。

そういえば鏡、メガネに限らず、カメラも時計もひいては想像力にも「中間層」が抜けてきているように思う。一点豪華主義さえも消えゆくのだろうか。

『人間の知恵27_ガラスのはなし』由水常雄 著 さ・え・ら書房 1998年11月 第5刷
木田元 編 メルロ・ポンティ コレクション3_ 幼児の対人関係』木田元滝浦静雄 訳 みすず書房 2001年9月