Memo of book

『自壊する帝国』(佐藤優著 新潮社 2006年)というソ連邦崩壊時のノンフィクションを読んだ。スパイもの推理小説に縁のない私であるが、素養がなくてもそれ風に面白く読めた。著者は鈴木宗男の事件の時、側近にいた元外交官であると途中で知った。本書では、日本とソ連という違う体制の外交最前線で、生身の人間同士が、駆け引きをし胸襟を開き、信義を結び情報を交換するというスリリングな現場を垣間見ることができる。登場人物は多く知性・体力において並外れ桁外れであるが、著者の描写を通すとそれでもそれぞれどこか人間味がにじみ出て、等身大な共感、近距離感を味わえる。ロシア料理はボルシチしか知らない人にも楽しめる。レシピにある、ふんだんなキャビアは身近ではないだろうが。


興味を引いた見出しと引用を少し。

モスクワ大学の二重構造
 資本主義経済学では資本主義社会の根本矛盾とその崩壊の必然性を研究するのでマルクス経済学を適用する。これに対して社会主義経済学では、資本家階級が廃絶され、搾取関係がない社会主義社会において経済をいかに発展させるかが主要な研究課題になるので、ここではブルジョア経済学(近代経済学)の成果を批判的かつ弁証法的に活用するということになる。(P.60)
・アルコールへの驚くべき執念
 …さらに驚いたことに靴クリームが街から消えた。アル中の連中が靴クリームを食うようになったという。 どうやって靴クリームを食べるのかサーシャに聞いてみた。…(P.65-66)
アルバート通り
 モスクワの中心地にアルバート通りというユニークな通りがある。日本大使館から徒歩四、五分のところにある。ブレジネフ時代、当局からは歓迎されていなかったが、若い人たちや異論派から熱烈な支持を得たブラート・オクジャワやウラジミール・ビソツキーというシンガー・ソング・ライターがいた。特にビソツキーのレコードはすぐに売り切れた。…(P.129)
・モトロフ・リッベントロップ秘密協定
ソ連の「隠れキリシタン
第六章 怪僧ポローシン
・「手紙作戦」の成果
 シュベードは、小学校に入学する前に両親が病没したため、二、三歳違いの妹と二人で孤児院で育てられた。…初めて一緒に酒を飲んだときウオトカの勢いで私が、「なぜ泥船のようなソ連共産党に賭けたんだ」と尋ねると、シュベードは灰色の瞳をうるませて、「孤児である自分をここまで育ててくれたソビエト政権には心から感謝しているから」と答えた。…
アントニオ猪木のモスクワ格闘技外交
ソ連共産党VS.ロシア共産党
共産党秘密資金の行方
・イリインの死
マサルチェチェンについて、クレムリンはあえて無法地帯を作り出しているんじゃないだろうか。無法地帯となっているチェチェン経由ならば関税を払わずにモノが外国から入ってくる。それから武器がチェチェンから外国に密輸出される。この利益の一部が政治エリートに流れていると思う。チェチェン問題は政権を根っこから腐らせる深刻な問題になるよ」 イリインがこの分析を私に述べたのは一九九二年夏、誰もチェチェン問題に関心を向けていなかった時期のことだ。…(P.393)