油だらけになって働いてみる

古い家に住んでいる。昨年の春休みのころ、裏の裏に当たる大きなコンクリートの家の解体工事のときには、自宅の2階の自室に積んである段ボール箱が逆階段のように移動した。昨年暮れの斜め向かいにあった古いマンションの解体工事の時には、工事による揺れは穏やかであったが 大黒柱にあたる柱が1センチ弱移動した。「人が住むと家は長持ちする」と聞いていたが、それは正確には「人が住むと家は(手入れされるので)長持ちする」ということであるらしい。「手入れしないとだめなのか」とあらためて気づく。

そして当然、家の細部なるものも 時間とともに痛んでくる。茶ばんだ押し入れの障子は今年の春先に「貧乏臭い」とせがまれ(破いたりマーカーで絵をかいたのはだれだ)、一部自分で張り替えた。ホームセンターに行けば自分で張り替えられる簡易なものが安く手に入る。用紙のうらには切手のように糊がまぶし乾燥させてあって、それを水を含ませたスポンジや大きな平筆で戻してはっていく。その前に枠を外し釘をぬく手順が大事なのだが(順序を間違えるとバキッと折れる)。畳み2畳分のスペースがあれば作業はできる。

インターホンがなかったので これもホームセンターに行って購入する。「昔は何とかちゃ〜ん、って外から声で友だちを呼んでいたよ」と言ってもダメであった。さて工事があるわけだが、工事費とコンクリートブロック用の電気ドリルを買うのとどちらが良いのか迷う。両者ほぼ同額である。電気ドリルを買って扱えるのか その後何に使用するのか。1ヶ月ちかく考える。待ちくたびれた子どもに期限を切られ、工事をたのむ。心配した「古いコンクリートにドリルを入れると、門ごと壊れる」こともなく、すっきりとインターホンは設置された。工事人は「ぼくの田舎では(インターホンが)ない家 まだ沢山ありますよ」と気さくな方であった。事情を話すと、「そうですか、じゃあお安くしておきましょう。あとは自分でやって下さい。」と、100円ショップのコード固定フックのことなどを教えてもらって、コードは自分でつけた。外に出ているコードにはビニールテープが巻かれ、そこだけ浮いている。室内から受話器をとって耳にあてると、雨音が聞こえた。

先週の土曜日、年季のはいった換気扇の紐が根元から切れた。凧糸より少し太いくらいだった紐は、油と埃で見えなくなっていた。「今度は換気扇か、これって家の領域かなあ(大家さんの領域なのでは?)」などと思いつつ、紐の固定してあった接続部分の金属製のフタのネジを、細いプラスドライバーで慎重にゆるめた。2つは短いネジ、1つは長いネジで、はずすとポンとはずれた。裏にはバネがついていた。バネの先には短いフックと長いフックがついている。1つはフタにかけもう1つは、換気扇のプロペラを回したり、外口を開閉したりする部分に接続されているようだ。まず紐を新しくしてからバネを正しい部分にひっかけフタのフックにもひっかかるようにしなくてはいけない。しかし何度やっても、もとの「カチャ、カチャ」の強弱2段階式の換気扇にならない。バネも浮いていて、押さえつつロングなネジを差し込んでいっても 収まりが悪い。だんだん手が油だらけになってきた。「どう見ても 鑑賞用の手じゃないわな」と思いつつ、「ここで諦めたら名折れだわ(?)」と、再度挑戦してみた。フックが十分連動するようにバネを回転させてはめてみた。はたして、上手く収まったのであった。うれしい。自信がつく。

油だらけで働くって、搾取の部分と仕事による自信の部分と、搾取されつつもすごい部分ってあるんだなと、当たり前の事かも知れないが、あらためて思うのであった。